でぶ猫もんじゅストーリー
カメラマンがやってきた
もんじゅは 鏡が大好き。
服を着たり 帽子をかぶったりして鏡の前に立つと
いつもと違う顔に見えて わくわくしてくる。
跳んだり 跳ねたり 踊ったり
何でもできそうな気がして 嬉しくなっちゃうんだ。
ある日、
完成した服を着て 鏡の前で悦に入ってると
後ろでガサゴソ音がして屋根裏に上がって来たやつがいる
そいつは 鏡の前のもんじゅを見ながら
「いいね。キミ、いいね。」
と言って、首にかけていた大きなカメラのレンズを もんじゅに向けた。
パシャっ
ボクはノブヨシ
これからボクがキミのカツドウをキロクしていくよ。
なんだか分からないけど、もんじゅの写真を撮りたいらしい。
もんじゅは
自分が少し ニヤリと笑ったような気がしたんだ。
ざいりょうをしいれる
作りたいものがあっても
ジューショクのとこに材料が無いときがあるんだ
でも、もんじゅは知ってるんだ。
お家の冷蔵庫に奥さんの「ホシイモノリスト」が貼ってあって
そこに欲しい物を書いておくと
ジューショクが買ってきてくれるんだ。
☆リンス(いつもの)
☆チューハイ(グレープフルーツ)♡
☆利休まんじゅう
☆ダイヤを散りばめたティアラ(ウソ!)
そこにもんじゅも付け足しておくんだ。
☆ライオンのけがわ(あたまはいらない)
ジューショクがどこで手に入れてくるのか
もんじゅはあまり興味がないんだ。
もんじゅの工房
もんじゅは、ジューショクのまねっこをして
色んなものを作りはじめたんだ。
ジューショクの趣味の部屋の屋根裏で
服を縫ったり 木をけずったり
材料と道具は ジューショクのとこから借りてくる
「あれ?ここにあったお裁縫セット知らない?」
ジューショクは独り言みたいにもんじゅに尋ねる。
「ぼくが使ってる」てもんじゅは言うんだけど、
「そうだよねぇ、知ってるわけないよね。」って笑って
すぐに買いに行っちゃうんだ。
だからまだお道具は返したことがない。
こうやって屋根裏には、お道具がいっぱいたまって
いつしかもんじゅの工房ができちゃったんだ。
もう一つの「趣味の部屋」
ジューショクの「趣味の部屋」は
もう一つあるんだ。
おそとに「ソウコ」があって、
そこには色んなものがそろってる。
木とか 紙とか 布きれとか。
不思議な機械もいろいろあって
ジューショクはそこで
色んなものを作ってるんだ。
ジューショクは
コスプレのために何でも作る。
服とか、持ち物とか、
大きなジューショクのカラダに
合うように作るんだ。
もんじゅはそれをずっと見てる
ときどき 機械の音にびっくりして逃げちゃうけど。
そんなもんじゅを見て
「ゴメンゴメン」て笑ってるんだ。
ある日、ジューショクが突然
「タンジョウビおめでとう!」といって
黄色い「シャツ」をくれたんだ。
コドモ用の服を、もんじゅに合うように
作り直したんだって。
むりやり抑えつけられて
「シャツ」をかぶせられ、手を引っぱられて、もんじゅは「やめれ〜」と思ったけど。
「ほら見て!かっこいい!」
ジューショクに差し出された鏡には
想像したこともないもんじゅが
映ってたんだ。
ジューショクの教え
危険じゃないのは分かってるけど、
どうしていいか分からずにもんじゅは固まってしまったんだ。
ちょっとだけ、尻尾がボワッとなるのが分かった。
「大丈夫。私だよ、もんじゅ。」
いつもの声に少し安心した。
いいかいもんじゅ。この世はね「仮の宿り」。
この大男の私も、この世だけの仮の姿。
次の世ではまた別の姿があるんだ。
だからね、今の姿が自分の全てだなんて
思い込まなくても良いんだよ。
だから、自分がなりたいと思うものになって良いんだよ。
姿は全て変えることは出来ないけど、
心は自由に翔びまわれるんだ。
ジューショクの話はよく分からなかったが
最後の一言だけは衝撃となって
もんじゅの眉間からお尻までビリビリと貫いた。
「もんじゅも、何にだってなれるんだよ!」
ジューショクのヒミツ
やっとのことで階段を上りきったもんじゅは
ふぅと息をついて、座り込み、今しがた上ってきた階段を振り返った。
何しに来たんだっけ。。
考え込んでいると廊下の奥から、
楽しげに口ずさむジューショクの声が聞こえた。「わ~らあっちゃうなみぃだのぉ~♪」
あぁそうだ。
もんじゅはのそのそと廊下を歩き、一番奥まで辿り着いた。
「趣味の部屋」の引戸は、少しだけ開いていて、
戸を開けるの面倒くさいもんじゅは、意外と通れるんじゃないかと期待して
鼻先を隙間にねじ込もうとしたとき…!
そこから見えたのはまんまるに肥った、可愛い女子高生…
ジューショクだ…!
女子高生に扮したジューショクは、玩具屋さんの袋から箱を取り出し、それを開けようとして、ふともんじゅに気づいた。
「見てしまったんだね…?」
もんじゅは、お尻がキュッてなったんだ。
趣味の部屋
ジューショクは、時々ふと姿を消す。
それは晩御飯のあとだったり、昼御飯の前だったり、
時にはおやつの途中だったりとまちまちだ。
ちょっと居なくなってすぐ戻ってくるときもあるが、
大抵はしばらく帰ってこない。
2階の廊下の突き当たりの「趣味の部屋」。
そこに行っているのは何となく知ってるが、もんじゅは余り気にしない。
それに、階段というものを上るのは、
もんじゅにとってはなかなかの大仕事なんだ。
その日、気もそぞろに夕飯を食べるジューショクの様子に
これから「趣味の部屋」に上がるのだなと何となく気づいたもんじゅだが、
どういう訳か、何となく寂しくなってきたんだ。
食器を流しに置いて、ジューショクはそそくさと2階に上がって行く。
もんじゅもすぐさま後を追ったのだけど、
まんまるで四肢の短いもんじゅにとって「階段」というものは
まるでそそりたつ壁だったんだ。
あっという間にジューショクの姿は階上に消えた。
前はジューショクが抱いて上がってくれたんだっけな。
そんなことを思いながらもんじゅは、転げ落ちないよう慎重に
1段ずつ上っていったんだ。
もんじゅとジューショク
ジューショクはまん丸である。
袈裟を着て黒い軽自動車に乗れば、運転席はパンパン。
いそいそと何処かへ出掛けて行き、帰る頃にはお弁当の包みやらお菓子やらで、助手席もパンパンになっている。
夜にはそれらをつまみながら、ビールを飲むのが日課で、もんじゅはそれに付き合うことになっている。
ジューショクは言う。
ただ無駄に命を貪っているのではないと。
私の仕事は声と言葉で人の心を癒す事だと思ってる。でも、見た目がガリガリで貧相だったら、有り難みが薄れるだろう?
だから私は、丸くなる努力をしてるんだ。
お話も、声も、体も、まぁるく まぁ~るく、だ。
もんじゅ。お前もこのお寺の子なんだから、もっとまぁるくならにゃいかん。
こんなガリガリじゃ、わたしがケチだと思われる。ささ、頂きなさい。お前は猫舌だからこれね…
そうしてジューショクの齧りさしのフライドチキンやお刺身なんかを、にゃ、とご挨拶をして頂くことになったのだ。
ジューショクの話は良く分からないが、とにかく「丸い」事が大事なのだと、もんじゅは日々努力をしている。
もんじゅの始まり
ある夏の早朝、もんじゅはお寺の縁の下で拾われた。
どうやってそこへ辿り着いたものか、とんと記憶にない。
ただ、寒くてぶるぶる震えていたのは覚えている。お腹もペコペコリンだったように思う。
そこへ覗き込んだまん丸で大きな顔が、「ジューショク」だった。「あれれ。ガリガリの子猫がおるよ。」
むくむくと厚みのある大きな手が伸びてきてチビ猫だったもんじゅを包んだ。
その日からお寺の猫として「それっぽい名前」を拝領し、もんじゅのストーリーが始まったのである。